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「民族の血」

「戦犯は名誉ある国家の一礎石である、永久にその生命、名誉は民族の血の中に印せられ、光彩を放つであろうと」――

『死の宣告と福田義夫』には、弁護人を務めた杉松富士雄が、死刑の宣告を受けたのちの福田にかけた言葉が記されている。

「民族の血」が何であるかは、詳しく書かれていないので正確なところはわからない。

「日本人の集合的な記憶」といったところだろうか。

イスラエルのことを思い出した。二度、旅行で訪ねた。

旧約聖書(旧約というのは新約、すなわち新しい約束を奉じるキリスト教徒からの言い方らしいが)を持ち、古代世界の出来事を、現代に生かして国家をつくったという事実が、気になっていた(のだと思う)。

イスラエルの人々にとっては、そういう昔のことが、民族の依って立つところなのだろうか、と思ったなあ。

サイゴンでの戦犯裁判を終えた一下級将校が書き留めた「民族の血」も、イスラエルの人々が奉じるような歴史的事実に関連するものなのだろうか。

しかし、と思うなあ。

サイゴンの戦犯裁判のことを、この時代のホーチミン市を訪れる日本人は、たぶん知らないだろう。

学生時代、初めて訪れたとき、何も知らなかった。会社を辞めて、ぼんやり滞在しに行く前、杉松の『サイゴンに死す』で読んで知った。

「父上母上先立つ不孝をお許し下さい、泉下で再会出来る日を楽しみ乍ら待っています」と福田は死刑宣告後、書いている。

「人間にとって死は難行である」と書いたとき、彼はどんな諦念を抱いていたのだろうか、とも思う。
by tamaikoakihiro | 2015-09-09 18:12 | 戦犯裁判 | Comments(0)

大東亜戦争と南方物語


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