土地のにおい、音
2014年 05月 18日
駅に降り立つと、においが北部と違った。食べ物のゴミが腐敗したような、いや違うかな、魚礁の濃厚なにおいかな、そういうにおいがあった。バイクタクシーに乗って、中心部に移動するとき、そんなことを感じ、「南部に戻った」と思った。確か3カ月かけてサイゴンから北部は中国国境のカオバン省なんかまで足を伸ばした。だからベトナムを結構知った気になった(単純なことに)。
土地にはにおいがあることを、異国で理解できたのは、いい経験だったと思い出す。
先日、日本の旧植民地、新義州に生まれ育った方のお目に掛かった。どんなにおいが記憶にありますかと尋ねてみた。
アカシアの花のにおいだったそうである。甘酸っぱいにおいなのだそうである。春になると、結氷していた鴨緑江が割れる。その音が、川の近くでは聞こえてきたとも伺った。土地の音である。
話は変わって……ベトナムにいらしたあの元残留日本兵の方は、奇遇なのだが、内地から渡って新義州の税関で働いていたと仰っていたなあ。あれはベトナムに住んでいた頃に聞かせてもらった。冬、オオカミの吠える声が聞こえたことも聞かせてもらった。
におい、音、それぞれ記憶を立体にするものだなあと思う。無菌、無臭志向の時代に育った自分に、そういうものが少ないことは、まあ、何となく残念だなあ。